ある日6

 

ある日。

古い民家を利用した自家焙煎のコーヒー店へ夕涼みに行った。天井が高く、煤けた天井の梁、茶色い木の窓枠、裏庭に無造作に並べられたコーヒーテーブルと椅子。音楽のない空間。店の人もほとんど無言。客のほとんどは一人で来る。みな静かにコーヒーを飲んで、静かに時を過ごす。サンドイッチなどの軽食の類は皆無。最近、オレンジピールチョコといかにもホームメイドなスコーンがメニューに加わった。コーヒーは決して安くはない。ディープローストのコーヒーもオリジナルローストも、どちらかと言えば、高い。それではここのコーヒー以外はもう飲めないと思うほどの完璧さである。毎朝淹れるコーヒーの味は、店で飲むものと比べ物にならないくらいに不完全であるが、不完全なりにクオリティの高い香りと味がする。備え付けの書架から適当に抜き出した本を読みながら、空が暗くなるまで窓辺の席で喫茶を楽しんだ。

 

お題「好きな乗り物」

断然、飛行機である。一気に、遠くへ行ける。どこでもドアの代用品として、最短距離にある。飛行機に乗る前の期待感、機内に腰を据えたときの高揚感、目的地に着いたときに感じる冒険の始まりの緊張感。電車や船とはレベルの違う非日常感。車窓や海岸沿いに見え隠れする日常生活とは一線を画した非現実的な雲上の光景が、幻想的な気分を呼び起こしたり、ランゴリアーズ的な妄想を掻き立てたりする。飛行機にずっと乗っていたい。目的地に着くことよりも、出発するときの不安と期待の混じった落ち着かなさが好きだ。